味の素KK健康基盤研究所 初代所長
東京大学名誉教授インタビューVol.06

健康基盤研究所 初代所長
東京大学名誉教授 農学博士

高橋 迪雄 インタビュー

ヒトという生物の不思議を解き明かすために

本来のあなたらしい、いきいきとした毎日を送ってほしい。
これが、味の素KKの願いです。

Vol.6
新しい素材としてアミノ酸や植物素材の機能を研究し、ヒトの健康に生きる力をサポートしていきたいと願っています。

味の素KKでは、どのような研究を行っているのでしょうか?

これまでのお話から、ヒトが健康に生きていくためにはアミノ酸がとても大切であることが分かりました。実際の研究について少しお伺いしたいのですが、まず、研究への思いといったあたりから・・・・・。
高橋 食品あるいはサプリメントを通じて、人々の健康をサポートしていきたい、あるいは健康に関する悩みを解消していただきたいという思いがベースです。素材としては、われわれの得意分野であるアミノ酸と、「植物のアミノ酸代謝」と関連付けて植物素材を取り上げています。健康という言葉は一つの抽象概念ですよね。健康を支えるさまざまな要素、つまり「基盤」をできる限り深く研究していきたいと考え、取り組んでおります。
確かに『健康』という言葉は抽象的で漠然としていますね。
高橋 人が身体の不調を感じる時、「こんなはずじゃない」、「若い時はもっと元気だった」という思いが背景にありますよね。これまでも「ヒトの生きる力」いう言葉を出してきましたが、それぞれの人で「生きる力」が最大に発揮されている状態が、実はそれぞれの人の「健康基準」なのですね。ところが、この「生きる力」は、加齢とともに着実に弱くなるように変化していきます。その変化をなるべく遅らせていくために、そして誰もが経験してきた若い時の良い状態に近づけていくためにはどういうサポートが必要か、ということが私達の研究の目的です。
最近『健康』が急に語られるようになったと思いますが・・・・・・。
高橋 とても大切なポイントですね。私達は現代の人間と昔の人間との生活の有様が大きく異なる点に着目しています。現代人は、600万年とも言われる長い長い人類の歴史では過去に経験したことのない生活を送っています。とても長く生きていること、運動をさっぱりしなくなってしまったこと、消化吸収のよい食品を何時でも、欲しいだけ取れることなどです。私達の身体は、思っている以上に現代のこのような状況に適応しきれていないんです。にもかかわらず、「生きる力」は加齢とともに着実に落ちていきますし、昔には存在していなかったたくさんの環境要因にもさらされています。健康問題は着実に全ての人々の問題になりつつあります。
そのような問題を解決する手段がアミノ酸であり、植物素材ということなのですか。
高橋 アミノ酸そのものは決して新しい素材ではありませんが、「タンパク質栄養」という言葉は昔からありますね。タンパク質は消化され吸収されて私達の身体の働きを支えることになるのですが、吸収されるのは実はアミノ酸という形になってからなのです。タンパク質は20種のアミノ酸からできていることはお話してきたところですね。今までは「タンパク質を何グラムとればよい」という程度で済まされていた「タンパク質栄養」を、個々のアミノ酸の生理機能というレベルまでブレイクダウンして語ろうというのが、私達がアミノ酸を素材として取り上げている真意です。詳しいお話をすると限りがなくなりますが、個々のアミノ酸をそのような見方から調べると、面白いように色々な機能が見つかってきます。少し面倒な話になりますが、私達は進化の歴史の中でアミノ酸は全てタンパク質を消化(分解)することで取ってきましたから、改めて個々のアミノ酸を、アミノ酸をそのままの形で食べると、今まで見付かってなかったような機能が浮き出してくるのです。大切なことはこのようにして見つかった機能は、ヒトがもともと持っていた機能に限られるということで、「生きる力」を強めるための最適な素材の一つであると確信しています。
植物素材の方は?
高橋 動物も植物も、もとはといえば同じ生き物の仲間だったわけで、植物素材には生命の根源的な部分を脅かさないという、食品として大切な性質があります。さて、植物は動物と同じ地球上に住みながら、動物と違って育っている場所から決して動けないという宿命にありますね。生きている環境には生命を脅かすようなさまざまな要因があります。動物は神経系を大いに発達させて動くことをはじめとして、さまざまな生き抜く手段を備えましたが、植物は動物の10倍もの多種多様な物質を作り出すことで生き抜いている生物です。その多種多様な物質の中から、私達の目的に合った、つまり「生きる力を高める」素材を見つけることは決して不可能なことではないと思えますから、とても楽しい研究なのですよ。それらの物質の非常に多くはアミノ酸と関係があることが判っています。アミノ酸そのものの研究と並行してこのような研究をすることで、「進化の過程で、動物が不本意ながら失ってしまった」ような物質を見つけていけると考えています。
これまで存在していたものであっても、見方を変えれば『新しい素材』が生まれるということなのですね。
高橋 そうなんです。「新しい素材」というと、「本当に安全かしら?」と思われるのは当然ですね。でも、新しい機能を研究していかないと、人間が直面している新しい事態には対応できないだろうという強い思いは判っていただけたのではないでしょうか。だから、「本当に安全かしら?」という問いに応えることは、私達の研究の最も大切なことでもあります。そのためには、まずその素材の作用のメカニズムを調べなくてはなりません。『ヒトが元々持っている機能を高めているんですよ』、『失いかけているものをサポートしているんです』、『ここに作用するから、そのような効果が現れるのです』といったことですね。ナチュラルな素材の新しい機能のメカニズムを明らかにすることが、安全性を説明するための第一歩と考えています。その上で、万が一にでも私達が見落としていた安全性に関する問題が無いかの検証が行われます。この点に関しては、「医薬品」が先駆者で、私達の会社には医薬研究所がありますので、少なくとも「医薬品並み」の検証が行えるという大きな利点があります。このような環境が無ければ、「新しいもの」といっても研究者は心配ですから元気が出ませんよ。昔から食べられている伝承的な食品は、安全性に問題が無いことは確かですし、それなりの機能が伝承されている場合もあります。そのような機能は「疫学的なエビデンス」で裏打ちされていると言えます。私達の新素材・新機能ということころから出発した素材が、生理学的なエビデンスを蓄え、人々に愛用された結果、最後には伝承素材として広く認められていくのが私達研究所の目標です。

新しい素材としてアミノ酸・植物素材の機能を追及していくことで、ヒトの健康に生きる力を最大限に引き出して行きたいという研究にかける願いが伝わってきましたね。次回最終回はその思いについて、さらにお話を伺いたいと思います。

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